調査は、キラーネットの餌袋にコイ、フナ用の練り餌(市販品)、魚肉ソーセージとスルメを細断したものを入れ、午後2時間、あるいは一晩キラーネットを水中に入れ、捕獲した魚等の種類と数を計数した。調査は11月13日から12月1日までの間に、大沢池及び新池で同時に8回ずつ行った。水生生物の調査のたびに、鳥類の観察を行った。

ため池の水生生物の延べ捕獲数
 <大沢池
 魚類: モツゴ41匹、ブルーギル10匹、ドンコ3匹、大型のコイ1匹(目視)
 甲殻類: ヌマエビ319匹、テナガエビ2匹、アメリカザリガニ1匹、モクズガニ1匹
  
 <新池
 魚類: 0匹、甲殻類: 0匹
 なお、目視で大型のコイ1匹を確認。この池ではコイ釣り、ブラックバス釣りが行われている。

 1回分の調査で観察した鳥類の最高数(8回の調査での種類ごとの最高値)
 <大沢池
  アオサギ2羽、カワウ21羽、カイツブリ6羽、セグロセキレイ3羽、キセキレイ1羽、カワセミ1羽、カルガモ、ハシビロガモ、スズガモ、マガモなど複数。

 <新池
 アオサギ1羽、カワウ2羽、セグロセキレイ1羽、マガモなどのカモ類51羽、タカ類1羽(カモを襲っていた)

まとめ
 大沢池の水質は、ヒシの繁茂の影響でやや汚濁していたが(下表)、生物相は思いのほか豊かであった。しかし、魚種は極めて限られていて、普通に見られるフナなどは捕獲できなかった。外来魚のブルーギルが比較的多く、在来魚の多様性に影響している可能性がある。

 一方、新池では魚類と甲殻類が1匹も捕獲されず、岸辺の浅瀬にも魚やエビ類の影が全く見られなかった。このような新池における生物相の貧困の原因は何であるのか。この池には生活排水等の流入はなく水質汚染は起こりにくい。一方、この池は雨水をためて貯水しており、すぐ近くに交通量の多い道路があり、その排気ガスや酸性雨により水質が酸性化しているのではないかと考え、水質調査を11月下旬から2回行った。その結果は下表の通りであるが、新池のpH及びECは、対象の水道水をほとんど変わらない値を示した。

図3 魚等の調査に用いたキラーネット
(写真をクリック)
魚などの調査に用いたモンドリ(商品名:キラーネット)
図2 新池:8月17日撮影
(写真をクリック)
ため池B:8月17日撮影 池面に水草はない
図1 大沢池:8月17日撮影
(写真をクリック)
ため池A:8月17日撮影 ヒシ群落が池面を覆う

ヒシの繁茂した「ため池」のその後(2)

    −−−ため池の生物相調査−−−

 2006年8月中旬までに、ヒシ群落が水面をほとんど覆ってしまった津市大里窪田町の大沢池では、秋が深まるとともに、ヒシの葉が急速に落葉し、水面にはほとんどヒシが見られなくなった(図1)。8月下旬から、大沢池の鳥類、魚類等の調査を行った。また、約1.3km離れたところにある、大沢池よりやや大きな、津市一身田の新池(図2)についても併せて生物相調査を行った。魚等の調査は、網製もんどり(キラーネット(商品名):W47×D26×H26cm)(図3)を使って捕獲した。その結果は下記の通りである。 















 






























 表 2箇所のため池の水質調査
大沢池 新池 水道水
(対照)
pH
7.96
8.19
7.19
7.13
7.15
7.09
EC (mS/cm)
0.13mS/cm
0.12mS/cm
0.08mS/cm
0.08mS/cm
0.11mS/cm
0.10mS/cm
透視度(cm)
19.6cm
26.0cm
54.0cm
55.8cm
100cm以上
100cm以上

注)測定は2006年11月30日と12月1日の2回(上段と下段)行った。透視度は手製の透視度計を用いた。

 上の表から、新池の水の酸性化は認められず、むしろ水質はため大沢池よりもかなり良好という結果であり、水道水と同等のpH及びEC値を示し、貧栄養状態にあると推察された。
 新池では、大型のコイ以外の水生生物相が極めて貧困であった。この原因が、水質の貧栄養状態にあるのか、また、時折この池でバス釣りが行われていることから、ブラックバスの生息が小型の在来魚類やエビ類の減少に大きく影響している可能性も考えられる(論文紹介)。新池では、少数のカワウが住み付き、潜って餌をとっているのをしばしば見かけるので、魚類が全くいないということではないようだ。今後、このため池で実際にブラックバスを捕獲して生息を確認するとともに、その餌についても併せて調べてみる必要がある。今回使用した「もんどり」では、大沢池および新池で、オオクチバスは捕獲できなかったので、他の方法を試みる必要がある。 

2007年6月にも、ため池(津市一身田の新池)の魚等を調査

 新池の南側の入り組んだヨシの生えた岸辺で、メダカ用の餌を水面に撒き小魚をおびき寄せるとともに、すくい取り用の網の中に練り餌を入れて魚が網内に入るのを待ち、12匹の魚を捕獲した。このうち、11匹はオオクチバスの稚魚であり、1匹は在来魚であった。また、岸辺でのすくい取りにより、ヌマエビ2匹、アメリカザリガニ2匹を捕獲した。さらに、ブルーギルの稚魚1匹、体長15cm程度のオオクチバスやコイが近くを遊泳するのを目視した。ミシシッピーアカミミガメの大型の成体2頭と甲長5cm程度の小さな個体1頭を目視した。2006年の調査も今回の調査地点と近い場所で行ったが、「もんどり」での捕獲はなかった。池の生き物調査では、まず手始めに、メダカ用の餌などを水面に散布して、寄ってくる魚やエビなどの棲息数の多寡を確認するのが良いようだ。今回の調査では、ヨシ原周辺の浅瀬で魚類等の棲息が確認されたが、外来生物が多いのが特徴的であった。


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